夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第三十三作
山路觀楓 明治二十二年十一月
石 苔 沐 雨 滑 難 攀
石苔 雨に沐し滑りて攀じ難く
渡 水 穿 林 往 又 還
水を渡り林を穿ちて往きまた還る
處 處 鹿 聲 尋 不 得
処処鹿声 尋ぬれど得ず
白 雲 紅 葉 滿 千 山
白雲紅葉 千山に満つ
〔語釈〕※石苔ー石にむす苔 ※沐雨ー雨で髪を洗う、転じて苔がが雨に濡れる意 沐雨櫛風 苦労するの意味有り、滑難攀につながる。※白雲紅葉ー子規は詩に色の観念を除くと詩の過半は自滅すると云っている。漢詩にはこの熟語が多い。だからと云ってむやみに使うのも一考。 ◇七言絶句 上平聲十五刪の韻(攀・還・山)
〔通釈〕 苔生す径は雨に濡れて滑り攀登るに難儀である。小川を渡ったり林をぬけたりして散策をする。どこからか鹿の声も聞こえるも姿は見えない。ただ白雲と紅葉が千山を彩っている。
〔補説〕 この詩は明治二十二年十一月六日付けの作文「山路觀楓」の中に次の和歌と一文がある。「己れも言の葉に遊ぶ身にしあれば此景色見て一首のうたよまざらんもはづかしとあまたヽび誦してからうた(唐歌)一つうたふ」とある。
杣人もにしき着るらし今朝の雨に紅葉の色の袖に透れば
(漱石の短歌さすがですナア~)
人しらぬ秋の錦を見よとかや白雲ふかく鹿ぞよぶなる
なく鹿の聲をしるべにたづねきてやつれ衣に錦おりかく
後に「言の葉の風情なく色香のにほはざるは野分にやあるらんと人々」に評されたと記している。(アハハハ、漱石を酷評する人もいるんですね。)
つづく
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