夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石の漢詩 第三作
題 畫
画に題す
何人鎮日掩柴扃
何人か 鎮日柴扃を掩う
也是乾坤一草亭
也是 乾坤一草亭
村靜牧童翻野笛
村静かに 牧童 野笛を翻し
簷虚鬪雀蹴金鈴
簷虚しく 鬪雀 金鈴を蹴る
溪南秀竹雲垂地
渓南の秀竹 雲 地に垂れ
林後老槐風滿庭
林後の老槐 風 庭に満つ
春去夏來無好興
春去って夏来るも好興無し
夢魂回處氣泠泠
夢魂回らす処 氣泠泠
【語釈】 〇鎮日―一日中。〇掩柴扃―柴の門を閉ざす。隠者の住まいにたとえる。〇乾坤―天地。〇簷―軒。〇蹴金鈴―鉄の風鈴を蹴るような騒がしさを言う。〇溪南―渓流の南。〇秀竹―たけむら。〇老槐―えん樹の老木。故郷の意有り。 ◇七言律詩九青韻(扃・亭・鈴・庭・泠)。
【通釈】 何方の住まいであろうか、終日戸を閉ざし、粗末な草庵であることか。村は静かで牧童の吹く笛、軒端では雀が騒ぎ、渓の辺の竹むら、林の後ろのえん樹の老木、四季を通じてあまり変化の無い風景で有るが夢をめぐらす処の此の画中の景色はまことにきよらかである。
【補説】 結句を 梵魂回處氣冷冷 とする書もあるが冷は仄字で泠が正しい冷はひややか泠はきよらか。また此の詩の最初に掲載された雑誌「時運」では梵魂となっていたとか岩波書店の「漱石全集」では夢魂となっている。
つづく。
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