漢詩鑑賞 夏目漱石之漢詩 第十六作

夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。

夏目漱石之漢詩鑑賞　第十六作

  　  七艸集評詩  九首　其八

京 客 多 情 都 鳥 謡
　京客(けいかく)は多(た)情(じょう)なり都(みやこ)鳥(どり)の謡(うた)

美 人 有 涙 滿 叉 潮
　美(び)人(じん)　涙(なんだ)有(あ)り　叉(さ)に満(み)つるの潮(うしお)

香 髏 艶 骨 兩 黄 壤
　香髏(こうろう)　艶(えん)骨(こつ)　両(ふた)つながら黄壤(こうじょう)

片 月 長 高 雙 枕 橋
　片(へん)月(げつ)　長(とこし)えに高(たか)し　双枕(そうちん)橋(きょう)

【語釈】※京客ー都の人。※都鳥ー『伊勢物語』『古今和歌集』に「名にしおはばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」の歌がある。※叉ーふたまた。川の二股になるところ。　※香髏ー才子の髑髏。才子のこと。※艶骨ー美人の骨。美人のこと。※枕橋ー向島にあった橋の名。　◇　七言絶句　下平声二蕭の韻（謡・潮・橋）

【通釈】都鳥の歌のように、都の客は気が多い、ために女は満ち潮のごとく涙を流すのである。そうした男も女も何れは骨となり土となり、片割れの月が双枕のごとき枕橋を照らすのである。

【補説】これはまた艶っぽくまたはかない浮き世を詠んだ句である。絶句よりも填詞にしたい。

つづく