夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第三十八作
函山雜咏 八首
明治二十三年九月 (三)
來 相 峯 勢 雄
相に来れば峯勢雄にして
恰 似 上 蒼 穹
恰も蒼穹に上るに似たり
落 日 千 山 外
落日 千山の外
號 風 萬 壑 中
号風 萬壑の中
馬 陘 逢 水 縟
馬陘 水に逢いて縟え
鳥 路 入 天 通
鳥路 天に入りて通ず
決 眦 西 方 望
眦を決して西方を望めば
玲 瓏 嶽 雪 紅
玲瓏 岳雪紅なり
〔語釈〕※相ー相模の国の略 今の神奈川県 相州 ※蒼穹ー青空 ※號風ー強い風の音 ※萬壑ー多くの谷 ※馬陘ー馬道 ※嶽雪ーここでは富士山の雪
◇五言律詩 上平声一東の韻(雄・穹・中・通・紅)起句にも押韻している。
〔通釈〕相模の国に入ると 山々が雄大に連なっていて山々が青空に上っているようだ。夕日は山の彼方に落ち 風は谷々で吹き叫んでいる。馬道は谷川によって絶えるが鳥の通い路は天に通じている。眼を開いて西方を凝視すれば富士の雪が美しく紅に染まっている。
〔補説〕漱石の詩にしては通り一遍の詩でこれと云った所がない。他の作品の引き立て役か。
ある有名な歌人(斎藤茂吉)だったと記憶しますが歌集を出すとき、引き立て役をするつまらん歌を挟む、いや、つまらん歌の中に秀歌を挟むのが良いとか。
つづく
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