夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第十二作
七艸集評詩 九首 其四
艶 骨 化 成 塚 上 苔
艶骨 化して成る 塚上の苔
于 今 江 上 杜 鵑 哀
今に于いて江上 杜鵑哀し
憐 君 多 病 多 情 處
憐れむ君が多病多情の処
偏 弔 梅 兒 薄 命 來
偏に梅児の薄命を弔い来る
【語釈】※艶骨ー美人の骨。ここでは梅若丸。※塚ー墳墓。木母寺(墨田区堤通二丁目)境内にある梅若塚をさす。正岡子規は明治二十四年の春、文科大学の学年試験、哲学学習のため、境内の料理屋「植半」の二階に一時下宿していた。※憐君ー君とは子規。明治二十二年五月九日、子規は喀血した。十三日に漱石は子規を見舞っている。 ※梅兒ー梅若丸。 ◇七言絶句 上平十灰の韻(苔 哀 來)
【通釈】梅若丸の艶骨は墳墓の苔と化してしまった。今も河畔のホトトギスは悲しげにないている。君は病にかかりその情は薄命の梅若丸を哀れみ弔いに来るのであろう。
【補説】梅若丸は能の「隅田川」(観世之雅作)でも有名な梅若伝説によっている。これは都で人買いに誘拐された梅若が東国まで下り隅田川の畔で病にかかり死ぬ。わが子梅若を追い狂女の姿で隅田川の畔まできて、一年前に死んだことを知り、悲しみにくれ、塚の前で念仏を唱えると、梅若の亡霊が現れ、夜明けとともに消えてしまう。この話と重ねて此の詩をを読むと感慨深いものがある。
つづく
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