夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第四十四作
送友到元箱根 三首
明治二十三年九月 (一)
風 滿 扁 舟 秋 暑 微
風は扁舟に満ちて秋暑微かなり
水 光 嵐 色 照 征 衣
水光嵐色 征衣を照らす
出 京 旬 日 滞 山 館
京を出でて旬日 山館に滞まり
還 卜 朗 晴 送 客 歸
還た朗晴を卜して客の帰るを送る
〔語釈〕※扁舟ー小舟 漱石は「草枕」第一章のなかで「二十世紀に睡眠が必要ならば、二十世紀に此出世間的の詩味は大切である。惜しいことに今の詩を作る人も、詩を読む人もみんな、西洋人にかぶれて居るから、わざわざ呑気な扁舟を泛べて此桃源に遡るものはない樣だ」とある。漱石の芸術感を憶測すれば、扁舟とは雅にあたる蒸気船では俗にして詩にならない、画にならない。※秋暑ー殘暑。※水光ー川の水から照り返す光。水の色 ※嵐色ー山の気、青々とした山の色。※征衣ー旅の衣 ※旬日ー十日間。 ※山館ー山中の宿。※卜ー選ぶこと。
◇七言絶句 上平声五微の韻(微・衣・歸)
〔通釈〕風が小舟に吹き満ちて殘暑も感じなくなった。水の色も山の色も衣に映る。東京を出て十日間、山の宿で過ごし、天気の好い日を選んで帰る客(友)を送った。
〔補説〕「送友到元箱根」この三首は五微の韻(微・衣・歸)で自分の詩に次韻をしている。
つづく
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