夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第十五作
七艸集評詩 九首 其七
洗 盡 塵 懷 忘 我 物
塵懐を洗い尽くして我物を忘れ
只 看 窗 外 古 松 鬱
只だ看る窓外の古松の欝たるを
乾 坤 深 夜 闃 無 聲
乾坤深夜 闃として声無く
黙 坐 空 房 如 古 佛
空房に黙坐して古仏の如し
【語釈】※塵懷ー世間の煩わしさ。※忘我物ー無我の境。※鬱ー木のしげるさま ※闃ー人気もなく静かなさま。※空房ー自分(作者)以外誰もいない部屋。
【通釈】 世上の煩わしさをすて、また自分も忘れた境地たなり、窓外の古松のみを見ている。天も地も深夜の静けさ、誰もいない部屋で古仏の如くすわっている。 ◇七言絶句 入声五物の韻(物・鬱・佛)
【補説】窓外だから庭であろう。◆古松を見ているうちに転句の深夜におよんだとの読み方をするか、最初から深夜の設定で庭の影絵のような古松を見ているのか。◆古松 古佛と二字重出ですから、古松を老松でも良いのでは。◆仄韻の詩句は古詩とする説もある。
つづく
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