夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第二十二作
木屑録詩並序 十四首中 其之五
客舎得正岡獺祭之書書中戲呼余曰郎君自稱妾余失笑曰獺祭諧謔一何至此也輙作詩酬之曰
客舎にて正岡獺祭の書を得たり。書中戯れに余を呼びて曰わく、郎君と自らは妾と称す。余失笑して曰わく、獺祭の諧謔一に何ぞ此に至るやと、輙ち詩を作りて之に酬いて曰う。
鹹 氣 射 顔 顔 欲 黄
鹹気顔を射て 顔黄ならんと欲す
醜 容 對 鏡 易 悲 傷
醜容 鏡に対して 悲傷し易し
馬 齢 今 日 廿 三 歳
馬齢今日 廿三歳
始 被 佳 人 呼 吾 郎
始めて佳人に吾が郎と呼ばるる
【語釈】※鹹気ー塩気。
※醜容ー醜い顔かたち。「木屑録」に
旬日之後赭者爲赤黄者爲黒對鏡爽然自失
旬日の後 赭は赤となり黄は黒となる鏡に対して爽然自失となる。 と、ある。
※馬齢ー自分の年齢を謙遜して謂う。※佳人ー美人。
◇ 七言絶句 下平声七陽の韻(黄・傷・郎)
【通釈】房総の塩風にあたり真っ黒に日焼けした顔は悲しくなるばかり。それにしても二十三歳の今美人から「あなた」と呼ばれた。
【補説】年若き子規と漱石の交遊がたまらなくたのしい。また子規がこの詩に次韻して
羨君房海醉鵝黄
君を羨む房海 鵝黄に酔う
鹹水醫痾若藥傷
鹹水痾を医し傷に薬するが若し
黄巻青編時讀罷
黄巻 青編 時に読む罷め
清風明月伴漁郎
清風 明月 漁郎を伴う
※鵝黄ー鵞鳥の雛の色、うすきいろ、美しいものにたとえる。菊とか酒とか。ここでは酒 ※黄巻青編ーどちらも書籍
つづく
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