夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第二十六作
木屑録詩 十四首中 其之九
自東金至銚子途上口號
東金より銚子に至る途上の口号
風 行 空 際 亂 雲 飛
風は空際を行きて 乱雲飛び
雨 鎖 秋 林 倦 鳥 歸
雨は秋林を鎖して 倦鳥帰る
一 路 蕭 蕭 荒 驛 晩
一路蕭蕭 荒駅の晩
野 花 濺 香 緑 蓑 衣
野花 香を濺ぐ 緑蓑の衣
【語釈】※東金ー東金市。千葉市の東隣、九十九里町の西隣の市 ※空際ー空の果て ※倦鳥ー飛び疲れた鳥 作者自身かもしれない。※荒駅ー廃れた宿場 ※緑蓑ー緑の蓑。ここでは粗末な雨具のこと。
◇七言絶句 上平声五微の韻(飛・歸・衣)
【通釈】風は空の果てまで吹き乱れ雲が飛んでいる。雨は秋の林を鎖すように降りそそぎ、疲れた鳥がねぐらに帰る。街道は寂しく道を進めていくと夕暮れの荒れたしゅくばにたどり着く。野花は香りを粗末な雨具にそそぐようだ。
【補説】倦鳥ー疲れ果ててぐったりした鳥と詠んでおられるが、雨の中で旅の疲れを鳥に喩えたともとれます。
つづく
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