夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第四十五作
送友到元箱根 三首
明治二十三年九月 (二)
煙 澹 天 澄 秋 氣 微
煙澹く天澄みて秋気微かなり
風 塵 不 着 舊 征 衣
風塵着かず 旧征衣
東 都 諸 友 如 相 問
東都の諸友 如し相い問わば
飽 看 江 山 猶 未 歸
飽くまで江山を看て猶お未だ帰らずと
〔語釈〕※煙ーもや 風塵ー世俗の塵 ※東都ー東京。※如相問ー王昌齢の「芙蓉樓送辛漸)に「洛陽親友如相問・一片冰心在玉壺)とある。ここからの引用。江山ー美しい川や山。自然。
◇七言絶句 上平声五微の韻(微・衣・歸)
〔通釈〕かすみが淡くただよい、空は澄んで秋の気配も少ししてきた。旅の着物は山に居て俗塵に触れずに居る。東京へ帰ったら、友達が漱石はどうしてるともし訊ねたら、自然に見とれて、まだまだ帰らないと伝えてくれ。
〔補説〕※江山ー初案では江嶽と有ったそうですが平仄違いを修正されたらしい。
漱石は二十四歳、第一高等中学校卒業。夏、箱根に約二十日間遊ぶ。漢詩十数首を作す。九月、帝国大学文科大学英文科に入学。直ちに文部省貸費生となる(年額八十五円)
つづく
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