夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第二十三作
木屑録詩並序 十四首中 其之六
詩佳則佳矣而非實也余心神衰昏不手黄巻久矣獺祭固識余慵懶而何爲此言復作詩自慰曰
詩佳は則ち佳なり而れども実に非るなり。余 心神衰昏して、黄巻を手にせざること久し。獺祭固より余の慵懶を識れり而るに何爲ぞ此の言やと復詩を作りて自ら慰めて曰く。
脱 却 塵 懷 百 事 閑
塵懐を脱却して百事閑かなり
儘 遊 碧 水 白 雲 間
侭 碧水 白雲の間に遊ぶ
仙 鄕 自 古 無 文 字
仙郷 古 自り 文字無し
不 見 青 編 只 見 山
青編を見ずして只だ山を見るのみ
【語釈】※塵懷ー俗世間の名声を追う気持ち。※碧水白雲間ー隠遁生活のイメージを曳く語。
◇ 七言絶句 上平声十五刪の韻(閑・間・山)
【通釈】俗念を捨てて今は全てが閑である。眼の前の山や海を見て気ままにいる。このような所は古来文字を必要としないから書物など読まないで山ばかり見ている。
【補説】子規が漱石に贈った詩の転句 黄巻青編時讀罷 のところに対しこの序と詩をもって応酬している。
漱石はカチンと来たらしい。名声を求めぬ者はいない。況や二十歳過ぎの青年にとっておやである。しかし隠者を装うは文人のつね、痛いところを衝かれたのかもしれない。それにしても転句は上手いナーと思う。
つづく
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