夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第二十七作
木屑録詩 十四首中 其之十
賃舟遡刀水舟中夢鵑娘
舟を賃って刀水を遡り、舟中鵑娘を夢む
鵑娘者女名而非女也
鵑娘は女名にして女に非ざるなり。
扁 舟 行 盡 幾 坡 塘
扁舟 行き尽くす幾坡塘
滿 岸 新 秋 芳 草 長
満岸の新秋 芳草 長し
一 片 離 愁 消 不 得
一片の離愁 消し得ずして
白 蘋 花 底 夢 鵑 娘
白蘋 花底 鵑娘を 夢む
【語釈】※刀水ー利根川 ※鵑娘ー正岡子規のこと ※扁舟ー小舟 ※坡塘ー土手
◇七言絶句下平声七陽の韻(塘・長・娘)
【通釈】お金を払って小舟(当時は小さな蒸気船が利根川を就航していた)にのり舟の中で鵑娘(子規)の夢を見た。
舟は幾つもの堤を過ぎ堤には初秋の草がのびている。君と別れてきた愁いは消しがたいものである。浮き草の白い花のなかで鵑娘を夢見ているのである。
【補説】漱石が序文でことわっているように、鵑はホトトギスであり子規もホトトギスの別名になのである。だからして正岡子規を恋人とふざっけて鵑娘としたようである。たてまえなのか、青年子規はユーモアに長けた人物であり漱石もユーモアたっぷりの人物である。前述の子規が漱石に与えた恋人のように詠んだ詩もあり、楽しくやりとりされているのが羨ましい。このような軽い詩もよい。漱石二十三歳の青年ですから、此からが楽しみです。
つづく
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