夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第三十四作
無 題 明治二十三年八月
江 山 容 不 俗 懷 塵
江山容るるや不(いなや)や 俗懐の塵
君 是 功 名 場 裏 人
君は是れ功名 場裏の人
憐 殺 病 軀 多 客 氣
憐殺す病軀 客気の多きを
漫 將 翰 墨 論 詩 神
漫に将に翰墨をして詩神を論ぜんとす
〔語釈〕※俗懐ー俗な心 ※容不ーいるるやいなや 疑問形 前後の関係で疑問形となる 普通肯定(容)と否定(不)を重ねると疑問になる。ちなみに、不の いなや は平仄両用 ※君ーここでは正岡子規 ※憐殺ー強く憐れむの 殺は語調を強める助字 ころす意味は全く無い。 ※客氣ーから元気。血気。※翰墨ー筆と墨。転じて文章のこと。
◇七言絶句十一眞の韻(塵・人・神)
〔通釈〕この詩は漱石二十四歳の作、子規の文学論は苛烈でした。 漱石には子規が功名に奔る人と思ったのでしょう。二十歳そこそこの青年には当然の思いでしょう。されど子規は余命幾ばくもない天才、功名心と自分の思いを後生に伝えたい思いが有ったでしょう。俳句雑誌ホトトギスや短歌雑誌アララギは子規やその弟子によって伝えられたその功績は大である。子規の論説は単に功名心と攻めるのは気の毒である。筆者の先輩にも死期を知って、周りの人に不快を与える書簡を送って顰蹙を買って居ました。 人間っていう生き物は哀しいですネ。
つづく
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