漢詩鑑賞 夏目漱石之漢詩 第十九作

漱石漢詩

夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。

夏目漱石之漢詩鑑賞 第十九作

   木屑録詩      十四首中  其之二

西 方 決 眥 望 茫 茫 
 西(にし)(かた) (まなじり)(けっ)すれば (のぞ)茫茫(ぼうぼう)たり

幾 丈 巨 涛 拍 亂 塘 
 (いく)(じょう)巨涛(きょとう) 乱塘(らんとう)()

水 盡 孤 帆 去 天 際 
 (みず)()きて ()(はん) (てん)(さい)()

長 風 吹 滿 太 平 洋 
 長風(ちょうふう) ()()つ 太平洋(たいへいよう)

【語釈】※決眥ー目を見開くこと。ぎゅっと見据えること。※茫茫ー広々としてはてしないさま。※亂塘ー入り乱れた防波堤。※長風ー遠くから吹いてくる大風。
◇ 七言絶句 下平声七陽の韻(茫・塘・洋)

【通釈】目を見開いて、遥か西方を見渡せば、果てしなく広がる大海原。防波堤に打ち寄せる大波。水平線のあたりに一艘の帆掛け船が去ってゆく。大風が太平洋をふきわたる。

【補説】 房総保田の海岸の荒々しい風景を描写している。前回の穏やかな興津の風景と比較する必要があります。なおこの詩には正岡子規の次のような評があります。 君子未必勝奸雄也 君子未だ必ずしも奸雄に勝たざるなり  (君子も奸雄に勝つとは限らない。) ※ 承句 涛は孤平。狂涛とすれば孤平はすくえるのでは。

つづく

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