夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第三十二作
無 題
抱 劍 聽 龍 鳴
剣を抱いて龍鳴を聴き
讀 書 罵 儒 生
書を読んで儒生を罵る
如 今 空 高 逸
如今 空しく高逸
入 夢 美 人 聲
夢に入る美人の声
【語釈】※抱剣ー男の子としての血気の詠う ※聽龍鳴ー龍などは男の象徴としてとらえる。 ※儒生ー学生 儒学の書生 ※高逸ー高くすぐれていること。◇五言絶句 下平声八庚の韻(鳴・生・聲)起句にも押韻してある。起承対句
【通釈】 青少年の頃は血気にはやったりしたものである。いろんな書物を読み、儒生を罵ったりもした。今日ではそんな物を超越して、夢で美人の声が聞こえてくる。
【補説】 漱石が生まれた翌年明治と改元しているので、この時漱石の年齢は廿三・四の青年時代の作である。
明治時代の文学者はをみれば、子規の「歌よみに與ふる書」、萩原朔太郎の「詩の原理」などは過去のもの現在(当時)のものを痛烈に罵りあっている。
この詩を漱石は明治二十二年九月二十日の日付で子規に「五絶一首小生の近況に御座候御憫笑可被下候」とあり収録されているそうです。続いて「第一句は成童の折りの事二句は十六七の時結轉は來今の有様に御座候字句は不相變勝手次第御正し被下度候云々」と謂う自解が付け加えてある。
つづく
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