夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第四十二作
函山雜咏 八首
明治二十三年九月 (七)
三 年 猶 患 眼
三年猶お眼を患う
何 處 好 醫 盲
何れの処にか好く盲を医せん
崖 壓 浴 場 立
崖は浴場を圧して立ち
湖 連 牧 野 平
湖は牧野に連りて平らかなり
雲 過 峯 面 碎
雲は峯面を過ぎて砕け
風 至 樹 頭 鳴
風は樹頭に至りて鳴る
偏 悦 遊 靈 境
偏に霊境に遊ぶを悦び
入 眸 景 物 明
眸に入りて景物の明らかなるを
〔語釈〕※患眼ー眼病(漱石はトラコーマを患っていた) ※何處ーどこに(初案では「來此」となっている)※浴場ー湯治場 ※牧野ー野原 ※峯面ー峰のおもて 峯面なんて詩語が有るのだろうか ※樹頭ーこずえ ※景物ー景色
◇五言律詩 下平声八庚の韻(盲・平・鳴・明)起句にも押韻している
〔通釈〕長い間眼病に苦しんでいる、何処に行けば治るのだろうか。崖は湯治場を圧するように立ち、湖は平野に連なって平らか。雲は峰の辺りで砕け、風は木々の梢をならしてゆく。ほんとうにこの俗界を離れた所に遊ぶのを悦び、目の当たりの景色ははっきりとして美しい。
〔補説〕明治二十三年八月九日付け正岡子規宛書簡に、然し小生の病は所謂ずるずるべったりにて善くもならねば悪くもならぬという有様故風光と隔生を免れたりと喜ぶ事もなきかはりに・・・と、あるのは張籍の「患眼」の詩に、「三年患眼今年較 免與風光便隔生」
つづく
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