夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石の漢詩 第二作
鴻 臺 (二)
鴻 台 (二)
高刹聳天無一物
高刹天に聳えて一物無く
伽藍半破長松鬱
伽藍半ば破れて長松 欝たり
當年遺跡誰有探
当年の遺跡 誰有ってか探らん
蛛網何心床古佛
蛛網 何の心か古仏を床となす
【語釈】 〇高刹―寺院 ここでは仏塔 〇無一物―禅家がよく使う語。人間本来無一物、人間は生まれた時は裸だから物欲や名誉欲を捨てれば真の幸福を得るものだ、等と使われている。〇伽藍―寺院。 〇蛛網―蜘蛛の巣。〇床―寝床。床しいと訓読している書も有るが床しいと言うのは和語として使ってはならぬと作詩者は厳しく戒められている。 ◇七言絶句五物の韻(物・鬱・佛)
【通釈】 仏塔は高く聳え立ち、他に何もない。寺院を護る者も無く朽ちかけて松が鬱蒼と生い茂っている。今はこの遺跡を訪れる者もなく、蜘蛛の奴は何を思って居るのか仏さまにハンモックをかけてベットにして居るわい。
起句と承句に高刹や伽藍と同意語が有って未熟の感有るも結句のユーモアはさすが。
【補説】 鴻台その一は磬の音が聞こえて寺には住職がいたがその二は住職は居らない事からこの二作は漱石の想像(心象)の詩であることがわかる。
つづく。
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