夏目漱石の漢詩を鑑賞して参ります。
夏目漱石之漢詩鑑賞 第二十一作
木屑録詩並序 十四首中 其之四
一夕獨不寐臥聞涛聲誤以爲松籟因憶在家之日天大寒閉戸讀書時星高氣清燥風[風叟][風瑟]窓外梧竹松楓颯然皆鳴
一夕独り寐ねず、臥して涛声を聞く、誤りて以て松籟 と為す。因って憶う家に在りしの日、天大いに寒く戸を閉して読書す。時に星高く気清し、燥風[風叟][風瑟]として窓外の梧竹松楓 颯然として皆な鳴る。
南 出 家 山 百 里 程
南のかた家山を出る百里の程
海 涯 月 黒 暗 愁 生
海涯 月黒く 暗に愁を生ず
涛 聲 一 夜 欺 鄕 夢
涛声 一夜 郷夢を欺く
漫 作 故 園 松 籟 聲
漫に作す 故園 松籟の声
【語釈】※家山ーふるさと。※百里程ー「木屑録」に行程九十餘里とある。日本の一里は約四千メートル。唐代の一里は約六百メートル。何れの尺度か。※海涯ー海岸。※暗ー何時も間にか。知らないうちにの意。 ◇ 七言絶句 下平声八庚の韻(程・生・聲)
【通釈】南の方百里の海辺に来た。月を見ていると何時しか愁いが生じてきた。打ち寄せる波の音に、家で聞いた松風かと思った。
※ 漢文は漱石の書かれた物の通りにしています。台湾や中国では現今は読点とか句点とか付けられていますが原作に順っています。
つづく
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